先日、妻から「こういう映画があるよ」と教えてもらい、一緒に映画『JOY』を観ました。 世界で初めて体外受精を成功させた、三人の先駆者たちの実話をもとにした物語です。
実は今、僕たち夫婦もクリニックに通い、不妊治療を続けています。 そんな当事者の視点でこの映画を観たとき、今とは比べものにならないほど大変な時代に、体外受精実現への道を切り拓いた人たちの想いに触れて、何度も胸が熱くなりました。
歴史の影にいた、もう一人の主人公
この映画の主人公は、看護師であり、世界初の胚培養士の一人として、後に認められたジーン・パーディさんです。
【胚培養(はいばいよう)とは】
取り出した卵子と精子を受精させ、お腹に戻せる状態になるまで、専用の装置の中で大切に育てることです。 お母さんの体温に近い温度や、適切な湿度を保つなど、わずかな変化も許されない非常に繊細な工程で、まさに不妊治療の「心臓部」ともいえる大切な役割です。
映画の最初と最後に、彼らの功績をたたえる記念碑が出てくるのですが、かつてそこには別の二人の名前しかありませんでした。ジーンさんの名前は、ある時までは刻まれていなかったのです。
映画の最初と最後に、彼らの功績をたたえる記念碑が出てくるのですが、かつてそこには男性二人(エドワーズ博士とステップトー医師)の名前しかありませんでした。ジーンさんの名前は、ある時までは刻まれていなかったのです。
劇中では、彼女がラボで顕微鏡を覗くシーンがたっぷり描かれているわけではありません。むしろ印象的だったのは、彼女が一人の女性として揺れ動く姿でした。
彼女自身も「当事者」としての葛藤を抱え、自分自身の体や家族との関係に悩みながらも、同じように苦しむ女性たちのために人生を捧げた。その「静かな覚悟」の重さが、画面越しに静かに伝わってきました。
劇中では、彼女が顕微鏡を覗くシーンがたっぷり描かれているわけではありません。でも、だからこそ、何百回もの失敗を繰り返しながら、たった一つの命の誕生を信じて見守り続けた彼女の孤独な時間の重さが、静かに伝わってきました。
三人のプロフェッショナルが繋いだもの
この物語には、ジーンさんと共に歩んだ学者と医師も登場します。
- エドワーズ博士(生理学者) 純粋な好奇心と「不妊に悩む人を救いたい」という情熱を持った科学者。世間から厳しい批判を浴びても、彼の情熱だけは決して消えませんでした。その「諦めない強さ」が、すべての始まりだったんです。
- ステップトー医師(産婦人科医) 診察室で日々、悩みや悲しみを抱える女性たちに直接向き合っていた医師です。当時はまだ珍しかった技術を駆使し、医療の現場で命を繋ぐ役割を担いました。彼の冷静な技術が、理論を「現実」に変えていきました。
情熱を燃やし続けたエドワーズ博士、現場で患者さんを支え抜いたステップトー医師、そして命を信じて顕微鏡を見つめ続けたジーンさん。この三人の誰が欠けても、今の不妊治療は存在しなかったはずです。
当たり前の「今」があるのは、誰かのおかげ
当時の社会は、今よりもずっと不妊に対して厳しいものでした。「神の領域を侵している」と差別的な言葉を投げかけられたり、偏見の目にさらされたり……。希望を持つことさえ難しいような暗闇の中で、彼らは世の中の「無理解」とも戦い続けていたんです。
映画を観終えて一番に感じたのは、今こうして「希望」を持って治療に取り組めていることへの、心からの感謝でした。
妻が毎日頑張って飲んでくれている薬。 アラームをかけて管理する、服用のタイミング。 クリニックで受ける、ひとつひとつの検査。
これらはすべて、あの三人の先駆者や、彼らを信じて協力した当時の人たちが、一つひとつ積み上げてくれた「バトン」のようなものなんだなと感じます。
最後に
治療を続けていると、ふとした瞬間に孤独を感じたり、気持ちが沈んでしまうこともあります。でも、どんなに厳しい状況でも諦めなかった人たちがいたからこそ、今、僕たちの手元にこの「希望」があるんですよね。
映画のラスト、新しくなった記念碑にジーンさんの名前が刻まれるシーンを見たとき、胸が透くような、救われる思いがしました。
「家族になる」ということは、これから起きるかもしれないいろんな課題に対して、その都度二人で話し合いながら、ゆっくり歩んでいく「旅」のようなものなのかもしれません。
先人たちが守ってくれたこの道を大切に。僕たち夫婦も、自分たちらしいペースで、日々の感謝を忘れずに歩んでいこうと思います。
この映画はNetflixで視聴できます。 不妊治療に向き合っている方はもちろん、誰かと人生を共に歩んでいるすべての方に届いてほしい、本当に素敵な作品でした。
■ 映画『JOY』予告編(YouTube)
■ Netflix本編視聴ページ